儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画レビュー:水の中のつぼみ


Water Lilies Trailer - YouTube

 

友達のアンヌについていったスイミングスクールで、シンクロを見て衝撃を受け、シンクロに憧れるようになった15歳の少女マリーは、そのシンクロチームのキャプテンである、フロリアーヌとパーティで出会います。フロリアーヌはマリーよりも上級生であり、しかも、男の子とSEXをしているらしいという噂があるほどの早熟な女の子です。どうしても、シンクロをやっているスイミングスクールに通いたいマリーは、冷たい態度を取るフロリアーヌに「なんでもやるから」とまで頼み込み、そのかいあってか、フロリアーヌの気紛れか、スイミングスクールを見学させてもらえます。

そこをきっかけに、マリーとフロリアーヌは徐々に仲良くなっていくのですが…

少し変わった映画だということは間違いないと思います。まず、日本やアメリカ等のエンターテイメント映画に慣れていると、話の作りが違うことに、戸惑う人もいることでしょう。事実として、話そのものはかなり唐突というか、急な展開を見せるところも多いです。「論理的な繋がりのある話」とは言いがたいものです。しかし、だからといって、悪しざまには言えない、独特の魅力を兼ね備えた映画だと思います。

僕は男なので、はっきりと断言しづらいところがありますが、この映画は思春期を迎えている女性の微妙な心理というものを、とても的確に捉えていると思うのです。経験豊富な大人の女性である*1フロリアーヌと、それに憧れる全然小さいマリー、肉体にコンプレックスを持つ、アンヌ。三者三様で僕の目にはそれぞれの描写にとても「痛々しく」そして、「生々しい」ものがあると思います。この「痛々しさ、生々しさ」には、男の青春モノと通じるところがありながらも、しかし、根底的になにかがハッキリと違うことがよく分かります。そして、その青春がとても僕の目には斬新に、写りました。

マリーとフロリアーヌの、揺れ動く、百合的な*2恋愛感情の描き方もとてもいいものでした。二人の間柄を邪魔するように、絶えず、フロリアーヌに纏わりついてくる男性の影。特に、フロリアーヌが昂揚した気分からなのか、マリーにキスをしようとするクラブのシーンは、この映画のハイライトです。どんどん加速していく音楽と、呼応するように近づいていく二人の距離、色気いっぱいでクラブも慣れた様子のフロリアーヌと、まったくクラブの空気から浮いているマリー、全てがあまりにもよく出来ているシーンです。

また、他に素晴らしいのは、男だと分かりにくい女性にしか分からない感情や、女性にしか分からない痛み、女性にしか分からない苦悩、というものを見事に表現できている点です。それも、「ただ女性同士の”傷の舐め合い”的な共感を呼ぶためにある」という程度の描き方ではないのが素晴らしいのです。この表現は男性でさえ共感させるほど素晴らしいものが備わっていると思います。

特にアンヌのSEXシーンの描き方はもう見てて僕も、辛くて辛くて…。「男ってなんて嫌なことをする生き物なんだ」と実感しましたし、その「痛み」が瞬間的にハッキリと僕にも伝わってきました。レビューとしては、こういうことを書くのはちょっとアレかもしれませんが、あの…大変勉強になりました。ありがとうございます。このシーンをこれからの教訓にします。男性の脳に掛かっていたある種の夢、ある種の妄想がビリビリのグッチャグチャに引き裂かれてしまうようなSEXの描き方ですが、これが現実であることは間違いがないでしょう。

 

ラスト、水の中へ飛び込むマリーの描写はとても「通過儀礼的」であり、この映画は、女性として「通過しなければ大人になれないもの」の一つだったのだとそう教えてくれます。

*1:大人の女性である”ように見える”なのですが…実は

*2:実は本編ではマリーが最初からその気があったのかなかったのかがとても曖昧に描かれており、瞬間的な気の迷いとも、本当のレズビアンとも取れるので微妙なのですが。ちなみに、監督のインタビューによるとマリーがどっちなのかはあえて分からないようにしているとのことです(参考:

http://www.tokyowrestling.com/articles/2008/07/tsubomimovie_3.html 映画のネタバレも普通に書かれてあるので注意)

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